もう逃げない

「俺なんかより良い人がいるよ」

そんな弱気なことを言って相手の好意を蔑ろにするやつなんて,ダサすぎる。そう思っていた。スカしたやつだと思っていた。でも,今の自分ならそういう臭いセリフも吐いてしまいそうだ。

 

 私はずっと逃げ続けていた。周りから非難されるのを恐れたり,無関心でいられたりすることを恐れて,自分が傷ついてしまうような場面を避け続けていた。

 

 最近,大学のとある友人にとても腹を立てていた。その理由は,そいつがあまりにも腰を低くして接してくるからだ。例えば,どんなときでもすみません,と枕詞をつけたり,lineの文章の読点を多用してとても自信なさげに振る舞う。声はめちゃくちゃ小さい。それなのに,相手にgiveする精神が見られず,自分の利益になるようなことしかしないようだ。

 

 周りの友人はそいつに対して,あまり起こっていない様子だったが私はこれまでにないほどそいつを嫌悪していた。その理由は今までは,そいつがあまりにも失礼だから,相手を気遣っているようで実は自分の保身しか考えていないようなやつだって思っていたからだ。

 

 でも,本当の理由は違う。本当の理由は,私自身の姿をそいつに重ね合わせていたからだ。私も,彼と同様なよくないところがあるのを無意識に自覚していて,潜在意識ではそういう性格を自分で責めていた。だからこそ,他者が同じような振る舞いをしていたら,激しく責め立てるのだ。

 

 私がこれほど,他人を気遣うようになったのは,きっと家庭の事情が大きい。でも今はそれはどうでもよいことだ。大切なのは,今どういう風に生きているか,そして,これからどうやって生きていくかということだ。

 

 このおどおどした性格を直したい。他人からの批判に敏感すぎる性格を直したい。extrovertな部分は残しながら,自分のメンタルをオープンにできて,精神的に強い人間になりたい。もっと,自由に生きたい。

 

 恋愛でもそうだ。私は,今年の初めに彼女に振られてから,もう誰も愛そうとしなくなってしまっている。それは,愛情を尽くした人間から見放されるのが怖いからだ。また誰かを好きになって,そして終わりが来ることが怖いからだ。嫌な思いをするなら,私の方が遊んでやる。あるいは,体だけの関係になってやる。そう思い込んで,ポジティブな方向に進んでいるのだと思い込んで,哀しく自分から,女性から逃げていた。

 

 今,少しだけ親密になりたいと思う女性がいる。こんな状態の私でも,私はその女性に対して少しだけ本当の恋愛関係を結びたいと思う。だからこそ,今までの体験から得た反省を活かして,駆け引きなんかやってみたりしていた。

 

 でも,今日の夜,彼女のツイートを見たり,今までの個人トークを見返しているうちに,そんなことをしている自分と彼女は釣り合わないし,また,そうしている自分が恥ずかしく思えてきた。何故なら,彼女は誠実だからだ。少し不器用なところもあるけれど,決してルールや道徳から外れたりはしない。彼女の作る文章や言葉からは,誠実な知性が感じられる。そんな人と私は結ばれていいのだろうか?少なくとも,色んなことから逃げている自分とは釣り合わない。

 

 「もう逃げない」

 

 人生が1回きりしかないからではない。私が不老不死でもそうでなくても,もう何かから逃げて後悔したくない。それが,今のわたしの本当の気持ち。

 

 もしかしたら,ダメかもしれない。恋愛だけじゃない。来年からの社会人生活も,勉強も,サークルも,バイトも,資格の勉強も,いや,これから立ちはだかる幾多もの障害も,上手くいかないことの方が多い。嫌だって思うことの方が多い。自由な身分である今でさえあるんだから。

 

 それでも,逃げることの方が嫌だ。逃げて,何も挑戦せず,成長せず,ただただ後悔して,何かの創作物に自分の理想の人生像を重ね合わせて擬似的に満足するのはもうこりごりだ。私は,私の人生を歩みたい。もっと他人に気を遣わずに,自然体でいられるようになりたい。誰かとつながっていたい。有能であることはその次だ。

 

 そうやって,自分の心から逃げない。サイコパスになろうとしない。瞑想をするとよく聞こえるようになるが,本当の心の声に耳を傾ける。そして,その声に従う。

 

 それが逃げないということ。